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迷走する人民元為替政策の行方

9月14日 特任教授 柯隆


 中国経済は複雑なジレンマに直面している。景気を押し上げる必要があるが、これ以上金融緩和政策を実施すると、資産バブルはさらに膨張してしまう恐れがある。しかし、このまま政策面の手当てを実施しなければ、景気がさらに落ち込み、デフレに突入する恐れがある。
 そのなかで、人民元の為替レートも迷走している。輸出が大きく落ち込んでいるなかで、景気をけん引する主力エンジンの一つが逆噴射している。政府は輸出ドライブをかけるために、割高の人民元を切り下げたいはずだが、元安期待がかかってしまうと、ホットマネーの形で中国に流れた外貨は海外に逃避してしまう恐れがある。
 8月11日、中国政府は人民元を3日間で4%ぐらい切り下げた。それについて中国政府は人民元を切り下げたのではなく、人民元の為替レジームを改革し、既存のレートと市場の均衡水準に近づけただけであり、それ以上、切り下げしないと意味不明なアナウンスを行った。
 しかし、市場では、元安期待がすでに強まっている。正規の為替市場では、人民銀行は依然として基準レートを定めることで為替規制を実施しているが、闇市場では、元安は進んでいる。それに拍車をかけているのは中国の輸出の減少である。問題なのは、元安は単なる為替レートの変動だけではなく、元安期待が強まることによって、中国の外貨準備を急速に減少させてしまうことである。これまでの1年足らずの間、人民銀行が保有する外貨準備は4000億ドル以上消えてしまった。
 外国人投資家からみると、中国の景気は落ち込み、人民元が割高となっており、人件費も上昇している。一方、ドルの利上げは、時間の問題であることから、資産は米国へシフトされている。投資家のポートフォリオ選択は合理的な判断に基づくものである。中国経済の実情から、外貨準備の減少を恐れるよりも、為替レートの調整を受け入れるべきである。
 通貨の為替レートは国際貿易の交易条件を定義するためのものである。中国政府は人民元の為替レートを割高の水準に維持する根拠がない。市場が人民元の緩やかな減価を求めているのに対して、人民銀行がそれに反して為替介入を続けると、ますます均衡水準からかい離してしまう。
 重要なのは為替レートの形成に中央銀行が直接介入するのではなく、中国経済の内実、すなわち、構造転換を図ることである。もしも産業構造が高度化せず、輸出が労働集約型の低付加価値製造業に頼るならば、人民元は一段と切り下がってしまうと同時に、外貨準備も大きく減少するだろう。
 短期的には外貨準備の減少は中国経済にとって悪いことではない。そもそも4兆ドル近い外貨準備は多すぎるからである。外貨準備は対外支払いリスクを管理するために保有するものである。最小限必要な外貨準備は輸入の半年分相当額といわれている。中国は長い間、外貨不足の国だったため、外貨準備を多く保有するインセンティヴが強く働いている。
 このタイミングで外貨準備の減少は金融緩和と同じように、景気を押し上げる効果が期待される。同時に、元の為替レートが調整されれば、輸出ドライブもかけられる。ただし、こうした調整が行き過ぎると、逆効果である。それゆえ、政府の役割は市場に直接介入するのではなく、構造転換を急ぐことである。

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