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不確実な予測を生かすには

7月31日 特任准教授 楠城一嘉


大規模地震対策特別措置法(以下、大震法)の見直しを含めた南海トラフ沿いの地震の観測・評価に基づく防災対応を検討している国の中央防災会議有識者ワーキンググループ(以下、作業部会)は、これまで6回会合を開催した(平成29年7月現在)。現在、事務局の内閣府は、大震法による現行対応を改める必要性を指摘した上で、現在の科学的知見を防災対応に活かしていく視点は引き続き重要としている。

作業部会が挙げる科学的知見とは、今後南海トラフで想定される状況のうち一部のケースは統計的手法に基づいて大地震の発生確率を示すなどの「不確実な予測」を出すことである。確実な予知はできず、あいまいな見通ししか示せないのが 地震学の実力だからである。確度の高い予測の困難さを前提にした、こうした学術的議論が分かりにくいのは当然だろうが、国はそれを分かりやすく国民、特に直面する静岡県民に対して説明する必要がある。この説明により、我々は、不確実な予測とはこういうことなのかと分かり、状況を受けとめられるだろう。今後、国はガイドラインを策定するようだが、それはあくまでガイドラインである。具体的にどのように活用するかは教えてくれない。これは当事者である我々が考えて行動するしかない。そこで、不確実な予測を活用するために何をすべきかを自分事として考える・議論するという“本当にアクションを起こす”ことからはじめてはどうだろうか?

まず、県の防災の現状や、不確実な予測とは何か、そして、国の最近の動向について、県民や地元企業へ情報提供することが議論の出発点である。例えば、作業部会で想定する異常ケースの一つ「南海トラフの半分で大地震が起き、もう半分が割れ残る」という場合、その割れ残った半分で大地震が起きる確率が何%だから防災行動を自分で考えろと言われても我々はわからない。そのような不確実な予測の理解から始めるべきである。これを踏まえて、予測情報をどう生かすかの具体的な議論を、情報を出す側と県民や地元企業で行うことが必要だろう。この作業により、各主体として防災対応をとる意味で、また様々な主体が相互に結びつく意味で、我々にとって、自分事として不確実な予測の活用を考える機会となる。一方、国や自治体にとっては、応急計画やガイドラインの策定、そして不確実な予測情報の出し方にフィードバックを得ることができる。

ただし、現在社会を支えている誰もが経験したことが無いのだから、こんなことが最初からうまくいくはずがない。焦らず、何度も議論を繰り返すことが肝要である。重要なのは、議論がかみ合い、総体としての防災が見えて来ることだからである。かみ合わせるには、関係者が集まりアイデア出しからはじめるような土台作りのワークショップの積み重ねが必要ではないか?その場合、研究者や行政だけではなく、県民や地元企業を議論に巻き込むことが欠かせないことになる。

今年2月、地震予知部門は、静岡大学と東海大学と共に南海トラフ地震に関するワークショップを開催した 1)。これは、地震の規模や発生時期を高い確度で予測することは現状では困難であることを踏まえつつも、南海トラフ地震の予測へ向けてどんな観測・研究が必要か、また、どんな地震予測情報が社会から求められているかなどを理解する良い機会になった。また、県内の防災関係者を中心に約100名が参加した熱心さからも分かるように、南海トラフ地震に対する立ち向かう意志の強さも感じられた。地震予知部門は、この第二弾として、上記趣旨を持ったワークショップを企画したい。

作業部会での川勝知事の発言や、静岡新聞(2017年6月29日)の提言のように、本県がリーダーシップを発揮し、この動きが全国に波及していけばよい。まずは、我々が第一歩を踏み出すことからはじめるのはどうだろうか?

1) http://global-center.jp/holding_guidance/290201/index.html

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