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HOME >  中国展望 (特任教授 柯隆) >  2013年(海外ジャーナリズムの眼) >  「農夫山泉」事件からみるメディアと企業の関係(中国)

「農夫山泉」事件からみるメディアと企業の関係(中国)


中国大手メーカーのボトル入り飲料水が水道水の有害物質の国家基準を満たしていないと報道され、人々に不安を与えた。この報道の背景には、食品業界における熾烈な競争があるとの見方がある。世論の力を利用し競合相手の立場を不利に導くことが常套手段になっている一方、生産におけるイノベーションは二の次となっているという。

6月21日

ミネラルウォーターの安全基準が水道水の基準を満たさない―中国で食品安全性の問題が多発する中、中国人にとってこれほど不安を感じるニュースはないだろう。北京市の大手地方紙『京華時報』は、4月10日付けで「農夫山泉の基準は水道水に劣る」とのタイトルの記事を掲載した。「農夫山泉」とは、中国のボトル入り飲料水市場のトップシェアを占める大手飲料水メーカーである。記事によれば、農夫山泉は浙江省の地方基準を適用しており、有害物質の基準は水道水の国家基準より低く設定している。『京華時報』は、「基準の前で誰も逃げられない」、「北京ボトル入り飲料水協会が農夫山泉の撤去を要求」、「飲料水基準に翻弄されるものではない」「農夫山泉が基準問題で生産を停止する」など、4月10日から5月7日までに、総計74の紙面で報道した。それに対し、農夫山泉はメディアや記者発表会で真正面から対抗した。同社は各地方メディアの総計120紙面を使って、『京華時報』が事実を捏造していると訴えた。さらに、広告枠で自社の基準と国家基準及び米国FDA(食品医薬品局)の基準との比較表を発表した。また、この事件を裏で操作するのは競合会社の「華潤怡宝」社だと名指しで批判した。農夫山泉社は『京華時報』に名誉毀損として6000万元の賠償も求めたが、最終的に、「会社の尊厳を守る」との理由で、北京市の工場を閉鎖し、北京市の市場から撤退すると決定した。

『人民日報』は5月7日に掲載した「農夫山泉が少し悩む」との記事で、「農夫山泉が、証拠データの提示により事実無根を訴えた。しかし、農夫山泉の水は本当に飲めるかについて、いまだに権威ある部門による公式な発表がない」と述べた。地方基準が国家基準より低いことについて、農夫山泉の董事長鐘氏による「基準修正は政府部門の責任であり、これは農夫山泉一社で変えられることではない」との発言も掲載された。

『南方週末』は5月10日に掲載した「農夫山泉の“恩讐記”」の中で、「暗闘が繰り広げられる中、消費者に最も密接に関係するボトル入り飲料水の国家基準の修正について注目が集まっていない。ボトル入り飲料水の基準は、生活飲用水の国家基準と地方基準に関係している。また、その中では食品品質基準と食品衛生基準が分かれている。ボトル入り飲料水の国家基準の策定について専門家が呼びかけてきたが、衛生部の対応が遅い。農夫山泉は本来ならば地方基準を使用すべきではないが、新しい国家基準がないため、ずっと使用することになった」と伝えた。また、5月24日の「“これはブラックボックス”、食品業界内の戦いの暗黙ルール」と題した記事では、「苛烈な競争が繰り広げられる食品業界では、顧客の奪い合いが常に起きている。たとえば、大量のサクラを雇い、競合相手にとって不利な情報を発信し、世論の力を使って話題を引き起こすことは、一つの常套手段になっている。これは特に単価の低い商品や、消費者の認知度に左右される商品によく見られる。たとえば、粉ミルク、食用油、飲料水など。差別化するためのイノベーションを重視せず、競合相手の製品を真似し、商品の『コンセプト』で市場を勝ち取ろうとするのは、食品業界の大きな問題である。このようなことが繰り返されるかぎり、消費者は一企業というよりむしろ、業界全体に対し不信感を抱く。最終的に勝つ企業はないだろう」と述べた。

(柯隆 編集)