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第3回 「上海福喜」食肉偽装と中国の食品安全問題(8月5日)

中国では、マクドナルドやKFCなどのファーストフード業者に食肉加工品を提供する米国OSIグループ傘下の上海福喜食品の工場で消費期限切れの食肉を混入していたことが上海の地元テレビに報道され、その影響が広がっている。中国の食品安全問題がクローズアップされたのは、はじめてのことではない。多くの中国人にとり、またかという受け止め方のようだ。

とはいえ、この事件の衝撃は予想以上に大きい。まず、これまでに摘発された食品偽装などの不正事件のほとんどは、地場企業によるものである。それに対して、今回の福喜食品は米国の大手食肉加工会社の子会社で、信頼できると思われていた。そして、ファーストフードが子供から大人まで広く食べられているため、事件の影響の大きさは計り知れない。さらに、この事件に関する数多くの謎がまだ解明されていない。

この事件が発覚したきっかけは上海の地元テレビ局の報道だった。しかし、その撮影は隠しカメラによるものではなく、撮影者が小型カメラを手に取って従業員と会話しながら記録したとみられている。常識的に考えれば、工場の責任者または従業員がカメラの前で堂々と不正行為を見せるとは考えにくい。にもかかわらず、従業員たちはカメラの前でその不正行為を隠そうとしない。

ここで考えられる唯一の可能性は、この工場のほとんどの従業員がその待遇に強く不満を持っており、集団で「造反」したことだ。しかし、待遇に不満があれば、従業員はいきなり「造反」を行うのではなく、ストライキなどの抗議行動に出るはずである。この工場については、従業員によるストなどの抗議行動は報告されていない。

もう一つの謎は、地元テレビの報道を受けて、中国の捜査当局がすぐさま5人の経営責任者を拘束したといわれていることだ。普通ならば、健康被害が報告されていない食品偽装などの不正事件においては、まず証拠を集め、その証拠が十分と認められてから関係者から事情を徴収するはずである。何よりも、事件が発覚してから、直接の責任者と関係者はだれも記者会見を行っていない。現段階では、事件がどのように起きたのか、その責任がどこにあるかについて、すべて謎のままである。

中国語には「大事化小、小事化了」という言葉がある。すなわち、大事を小事にし、小事を何事もなかったようにするという意味である。同じ事件でも、その処理の仕方によって大事にすることもできるが、何もなかったかのようにすることもできる。本件についてその背景は十分に明らかにされていないが、すべてを透明にしなければ、こうした食品の安全性を脅かす事件はまた起きると断言できる。

無論、食品安全性に係る問題は中国に限るものではない。従業員による犯罪事件については、中国では冷凍餃子にメタミドホスが混入される事件が起きた。同様に、日本でも、アクリフーズの冷凍食品にパート従業員が農薬のマラチオンを混入し、健康被害が報告されている。そして、犯罪事件ではないが、消費期限偽装事件については、中国では今回の事件がはじめてではない。日本でも、和菓子の老舗「赤福」は期限切れの原材料を混入して使っていた。要するに、食品の安全性を担保するのは、監督・監視の強化である。監督者が責任を果たさなければ、どこの国や地域でもまた同様な事件が起きうる。生産者の努力として、その生産過程をすべて透明化する必要もある。生産者のモラルハザードを抑止するには、政府(監督者)、生産者と消費者が共同でガバナンスを強化するしかない。

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