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第5回 景気減速が鮮明になっている中国経済の行方(10月22日)

世界の景気は期待されているほど強くない。ヨーロッパの債務問題は未解決のままである。アメリカ経済もアップルなどの個別企業の業績は別としてマクロ的にはさまざまなリスクに晒され、このまま景気回復へ向かうかは不透明である。そのなかで、日本経済もアベノミクスの成長戦略は消費増税の反動が予想以上に景気に圧し掛かり、円安による輸入インフレは実質金利をマイナスにし、家計の消費を妨げている。

こうしたなかで世界経済のけん引役として期待されてきた中国経済も一段の減速が鮮明になっている。2014年第3四半期の経済成長率は7.3%に減速。このままでは、政府が掲げる7.5%の成長目標は達成できない可能性がある。国家統計局長は第3四半期の経済成長率を発表したとき、「おそらく第4四半期は経済成長が回復するだろう」と述べた。

統計局長のこの発言は何を根拠にしているのだろうか。一つの可能性は政府が景気を押し上げる大型の景気対策を実施することである。実は、今回の統計が発表される数日前に、人民銀行は国有銀行を中心とする主要な銀行に対して5000億元(約8兆7000億円)の短期流動性ファシリティ(SLF)を実施した。その前に、7月には、人民銀行は市中銀行の預金準備率を中小企業向けと農業関連に限定して引き下げた。こうした措置は中国的量的緩和といえよう。
 
しかし、なぜ景気が減速しているかの原因を明らかにしないといけない。

まず、経済をけん引するエンジンが弱くなった。中国経済をけん引するエンジンといえば、公共投資と輸出だった。輸出は交易条件によって決まり、人民元の切り上げと人件費の上昇は重荷になっている。そして、消費が伸びないことも景気の悪化をもたらしている。さらに、李克強首相が掲げる構造転換のリコノミクスは遅々として進んでいない。大型国有企業と地方政府はリコノミクスに呼応せず抵抗している。

こうしたなかで、不動産市場は停滞気味になっている。不動産市場の停滞は自ずと建材マーケットに悪影響を与える。鉄鋼やセメントといった重厚長大の産業は長年の過剰投資の結果、たくさんの過剰設備を抱えている。
 
これらの諸要因のほかに、景気回復を妨げているもう一つの要因は大気汚染の深刻化である。無理な高成長路線は資源効率を押し下げてしまう。地方政府も企業も高成長を追求するだけで環境対策を十分に講じていない。北京を中心とする首都圏のPM2.5問題はほぼ絶望的である。政府による環境対策は期待できず、PM2.5問題の解決は強風に期待している。
 
総括すれば、金融の量的緩和は短期的な流動性不足を補うことができるが、経済の体質を改善することができない。このことは先進国でも新興国でも同じである。量的緩和が長期化すれば、産業構造と経済構造のさらなる歪みをもたらす可能性が高い。中国についていえば、国有企業の民営化を軸とする構造転換を実現しなければ、経済効率が向上せず、経済成長は持続不可能と思われる。
 
リコノミクスが唱える構造転換は正しい問題意識である。それに抵抗しているのは大型国有企業などの既得権益集団である。それを打破するには、李克強首相の勇気が必要である。かつて、朱鎔基元首相は100個の棺桶を用意し、一つは自分のため、残りの99個は腐敗幹部のためと述べ、改革の決意を示した。李克強首相も同じ決意を示し、改革に取り組む必要がある。

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