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第16回 景気が減速しても大気汚染が深刻化する原因(12月22日)

11月に入ってから中国の東北地方と華北地方の大気汚染は深刻化し、大気汚染の深刻さを示すPM2.5の濃度は相次いで史上最高を記録した。専門家の間で景気が減速すれば、工場などからの汚染物質の排出量は減少するようになるため、大気汚染はいくらか改善するだろうと予測している。しかし、実際の大気汚染は専門家の予測とは正反対である。

まず、東北地方の中心地である瀋陽では、11月にPM2.5の濃度は1000㎍/㎥を超えた。それに続いて、北京を中心とする華北地方でも、PM2.5の濃度は1000㎍/㎥を超えた。経験的に、PM2.5の濃度が500㎍/㎥を超えれば、50m先の建物はぼんやりとしかみえない。さらに、PM2.5の濃度が1000㎍/㎥を超えた場合、10m先の車も点灯しなければ、はっきりとみえないぐらいである。

では、なぜ景気が明らかに減速しているのに、大気汚染は深刻化する一方なのだろうか。
中国国内メディアは、気象条件が大気汚染の深刻化をもたらしていると指摘している。この指摘の真意は連日風が吹いていないため、汚染物質が滞留し、PM2.5の濃度を押し上げたとのことである。確かに燕山山脈に邪魔され、冬に偏西風が吹かない日は空気の対流がしにくい。それによって、大気汚染が深刻化してしまう可能性が高い。しかし、その前に、汚染物質の存在は問題である。

実は、景気が減速しても、工場などからの汚染物質の排出量はそれほど減少していない。たとえば、北京を囲むように河北省石家庄などにおいて中堅の製鉄所などが多数配置されている。これらの工場の設備は老朽化が進み、そのうえ、環境対策が十分に講じられていない。また、華北地方では、民家へのセントラルヒーティング(集中した熱供給システム)の割合は6割も満たない。とくに、中小都市において一般民家は石炭を焚いて炊事することが多い。

一方、自動車の排気ガスも大気汚染の主な原因の一つである。景気が減速しても自動車の走行は減少しない。中国では、ガソリンなどの燃料に対する規制を先進国並みに強化しようとしているが、中小都市では、十分に徹底されていない。

したがって、景気が減速しているから、大気汚染はいくらか改善するだろうとの観測は必ずしも十分な根拠のない議論である。実質GDP伸び率が示しているのは経済規模の拡大のスピードである。現在のGDP規模だけで大気汚染の深刻化を助長する影響は予想以上に大きい。もし老朽化設備を削減し、GDP規模の縮小を容認すれば、大気汚染はいくらか改善するかもしれない。

12月に開かれた共産党中央経済工作会議では、構造転換よりも成長重視の決議がなされたようだ。景気が減速すれば、失業問題の深刻化など社会不安が懸念されている。結局のところ、「新常態」と定義されている中成長よりも少しでも高い成長を目指そうとする。その結果、大気汚染の深刻化は長期化するものと思われる。

環境汚染を退治するには、政府、企業と国民のモラルハザードを是正する必要がある。そのうえ、大気汚染をもたらす企業を厳罰するために、法の執行を強化しなければならない。中国は成長か汚染退治かのディレンマに陥っている。おそらく中国政府は大気汚染を退治したいのだろうが、それによって成長が落ち込むと、社会不安が深刻化してしまう。右往左往のなかで大気汚染は日増しに深刻化している。北京の青空はいつ戻ってくるのだろうか。

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