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第20回 竹内宏流の経済学と世界観(5月17日)

竹内センター長はわたしにとってなんともいえない身近な存在です。名古屋で留学し、名古屋大学から経済学修士を取得したあと、日本長期信用銀行の子会社だった長銀総合研究所に就職しました。そのときの理事長は竹内宏理事長でした。長銀の一つの慣行として、すべての新入社員は必ず竹内理事長の講話を拝聴しなければなりません。わたしのときは、100人ほどの新入社員が竹内理事長の講話を真面目に聞こうと、講堂のような大会議室で静かに待ち望んでいました。竹内理事長が入室されたあと、何ともいえない清水弁で講話を始めましたが、なんと開口一番で「諸君はサラリーマン人生を成功させようと思うなら、銀行に貢献すると思うな。サラリーマン人生を成功させるコツは銀行を食い物にすることや」といわれ、若者のほとんどは目が点になってびっくりしました。

しかし、一介の若手研究員にとって理事長は簡単に近づける存在ではありませんでした。長銀総研のとき、竹内理事長とはゆっくりお話をする機会はほとんどありませんでした。1998年、長銀が経営破たんする前に、私は富士通総研に転職しました。その後、竹内理事長も長銀総研のOBで作られた価値総研の顧問になり、自らが竹内経済工房を設立されました。竹内理事長は、静岡に対する思いが強く、1984年から静岡総研の理事長でもありましたが、ある日、静岡総研の担当者から「竹内理事長がお願いしたいことがある」、と連絡をいただきました。私が竹内理事長のところにお邪魔しようと思いましたが、理事長は自ら私のオフィスにおいでになられました。

「中国に出張したいですが、同行してもらえませんか」の頼みでした。それ以降、何回か竹内理事長に同行して中国に出張しました。山東大学や浙江省銀行協会などで講演されましたが、その通訳はわたしが担当させていただきました。そのなかでとくに印象に残ったのは、竹内理事長の旧知の上海元市長だった汪道涵(おうどうかん)先生を訪問したときでした。

上海市役所の大会議室での接見でしたが、といっても、バスケットボール場ぐらいの広さでした。隣り合って座る二人は、なぜかマイクを使って会談されました。その通訳も私でした。汪元市長は竹内理事長に、「竹内先生は著名な経済学者なので、我が国の経済運営についてなにかいい政策があれば、提言していただきたい」といわれました。それに対して、竹内理事長は淡々と「必ず成功する政策は存じ上げないが、必ず失敗する政策ならいくらでも提言できる」と応じられました。それを聞いて、汪先生は笑って「それも重要な提言です」と返してくれました。

その度の帰りに、上海虹橋空港のラウンジで竹内理事長と二人になり、竹内理事長から「柯さん、中国は変わったね。昔、長銀総研のとき、北京の研究者を東京に招待して、成田空港からハイヤーで都内に入ったとき、高速道路の防音壁をみたその人は、竹内先生、この壁の向こうは軍事施設ですか、と聞かれました。」といわれました。竹内理事長が最初に中国に行ったのは文革のときだったそうです。東京から香港に飛んで、そこから列車に乗って広東省に入り、そして、飛行機に乗って北京に入る遠征だったそうです。中国の「改革・開放」を自分の眼でみてこられた竹内理事長だから、普通の日本人と違う視点で中国をいつも眺めていらっしゃいます。

静岡総研が静岡県立大学のグローバル地域センターに変身するとき、竹内理事長はセンター長になられました。そのとき、「柯さんは、センターの特任教授になってくれませんか」と頼まれました。以降、竹内センター長は体調の問題で中国訪問を実現されませんでした。しかし、中国のことを最重要な研究対象にしておられました。中国から来る専門家なら竹内センター長は必ず面会し熱心に話を聞かれました。

竹内センター長の世界観を一言でいえば、できるだけマクロ的に捉え、ヒストリック(歴史的)に展望することでしょう。社会科学において、とくに経済学者の場合、簡単なことを難しく述べる方が多いが、難しいことをわかりやすく説明することのできる人はそれほど多くない。今年の3月、センターのフォーラムで講演してもらった中国人民大学名誉教授の周孝正先生の言葉を援用すれば、「一流の研究者の講演は、専門家だけでなく、素人も聞いてわかる;二流の研究者の講演は、素人ではわからない。専門家ならわかる」。この判断からすれば、竹内センター長は名実とも一流の研究者でした。

ご冥福をお祈り申し上げます!

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