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第22回 中国経済のディレンマと不透明感(8月16日)

中国経済が直面する問題は明らかであるが、それにきちんと対処できていないから、景気減速が止まらない。胡錦濤政権(2003-2012年)の10年間、景気浮揚の刺激策が講じられた。そのなかで2009年に実施された4兆元の財政出動は前代未聞の規模だった。しかし、景気減速を食い止めることができなかった。

習近平政権が誕生してから、李克強首相はサプライサイドの改革に意欲をみせた。俗にリコノミクスと呼ばれる経済政策の柱は構造転換だった。2016年3月に開かれた全人代の記者会見で李克強首相はゾンビ企業の閉鎖を宣言した。しかし、それから半年近く経過したが、ゾンビ企業の閉鎖は進んでいない。同時に、企業の過剰設備もほとんど削減されていない。

なぜ中国の構造転換はそんなに難しいのだろうか。

実は、民営企業の過剰設備や在庫の処理はそれほど難しい問題ではない。問題なのは国有企業の在庫調整と過剰設備の削減である。民営企業の場合、過剰設備や在庫を抱えていると、命取りになるので、企業自らが過剰設備の削減と在庫調整に乗り出す。それに対して、国有企業の場合、政府によって保護されているため、たとえ過剰設備や在庫を抱えても、自らがそれらを削減しようとしない。政府にとって重要なのは、国有企業の経営収益よりも雇用を創出してくれることで社会の安定を担保してくれることである。

したがって、理論的に考えれば、民営企業はゾンビ企業になりえない。経営赤字が膨らめば、経営破たんになる。国有企業のみゾンビ企業になりうる。政府はゾンビ企業の破綻による社会不安の深刻化を心配しているから、支援の手を差し伸べる。

そのなかで、李克強首相は非効率な国有企業にメスを入れようとしているが、国有企業経営者の人事権は共産党中央にあるため、李克強首相の改革は効果が上がらない。

中国政府が抜本的な改革を断行できないのは、減速しているが、成長を続けているからである。ポリシーメーカーに十分な危機感がないと、思い切った改革が行われない。結果的に、採算の合わない中小国有企業は自転車操業を続けることになる。中国経済は巨大なマシンのようにところどころ壊れかけているが、それを修理せずに、回され続けている。

思い切った改革が行われないもう一つの原因は政治システムにある。反腐敗キャンペーンが展開されるなか、地方の幹部はやる気を見せない。李克強首相は幹部たちのやる気のなさにときどきいらだちを隠せず、怒りをあらわにする。「幹部にとって無為(何もやらないこと)は腐敗と同罪だ」といわれている。

ここで、問われるのは政府の役割と市場の役割である。政府はすべてのことをやろうとするから効果が上がらない。政府は自らに対する過信を捨てるべきである。たとえば、国有企業改革などは市場の力を軸に進めるべきである。政府のやるべきことはただ一ついかなる企業も保護しないと宣言するだけである。

政府が国有企業を保護する原資を社会保障制度の増強に充てれば、失業者の受け皿として社会保障制度がその役割を果たしていく。結局のところ、政府は市場に代わってすべての役割を担おうとするから八方ふさがりになってしまっている。したがって、中国は構造転換を促進していくならば、政府の役割をあらためて定義し直す必要がある。

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