地理情報システムとハザードマップ (客員教授 井筒 潤)
6月28日 客員教授 井筒 潤 (中部大学 中部高等学術研究所 国際GISセンター)
地理情報システム(GIS:Geographic Information System)とは、デジタル地図の上で様々な「地理情報」について表示・作成・管理などを行う技術である。地理情報とは緯度・経度・高度などのある特定の空間の位置を示す情報と、その位置に結びつけられた様々な情報のことであり、例えばアメダス観測点で測定された気温や降水量のデータや、自治体単位で集計された人口統計データ、住所データに結びつけられた飲食店のメニューや評判などが地理情報に含まれる。カーナビゲーションやGoogle Mapに代表される地図アプリケーションなども地理情報システムの利用例である。特にインターネット上で利用可能なGISをWebGISと呼ぶ。
GISの利用と普及が一気に広がったのには理由がある。それは、アメリカのGPS、EUのGalileo、日本のみちびきなどの全球測位衛星システム(一般にGNSSと呼ぶ)の整備が進み、また2007年4月以降携帯電話端末がGPS等の測位方式による位置情報通知機能に対応したことで、個人レベルで緯度経度などの正確な位置情報が簡単に得られるようになったからである。
地理情報システムの利点は複数の情報を重ね合わせて表現できる点である。特に様々な自然災害の被害を予測し、その被害想定範囲や避難場所を地図上に示すハザードマップへのGISの利用が進んでいる。今住んでいる場所にはどのような災害リスクが存在するのか、災害が発生した時はどこに避難すればよいのか。それを教えてくれるのがハザードマップである。
ハザードマップは対象とする自然災害についてそれぞれ作成・公開が義務付けられている。例えば以下のハザードマップがある。
• 河川氾濫時の浸水想定区域を示す洪水ハザードマップ
• 下水道の排水能力を超える降雨による浸水想定区域を示す内水ハザードマップ
• 土砂災害警戒区域を示す土砂災害ハザードマップ
• 地震に対する想定震度(揺れやすさ)やそれに伴う液状化現象の想定区域などを示す地震ハザードマップ
• 津波災害警戒区域を示す津波ハザードマップ
• 火山災害警戒地域を示す火山ハザードマップ
• 高潮ハザードマップ、ため池ハザードマップなど、地域の特性に応じたハザードマップ
役所や役場などで配布されている紙媒体のハザードマップではそれぞれの災害についてそれぞれの地図が必要になるが、GISを用いることで、縮尺を自由に変更できる背景地図の上に、自分で選択した浸水想定区域や土砂災害警戒区域、避難場所等の様々な情報を重ね合わせて表示させることができる。
国土地理院のハザードマップポータルサイト(1)では「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」が公開されている。「重ねるハザードマップ」では住所を入力するとその地点の地図が表示され、洪水・土砂災害・高潮・津波・道路防災情報・地形分類などの情報を重ね合わせて表示することができる。「わがまちハザードマップ」は自治体を選ぶことでその自治体がハザードマップを公開しているwebサイトにアクセスすることができる。
自治体によってはWebGISを使用した防災情報マップを公開している。例えば静岡市では「静岡市防災情報マップ(2)」が公開されており、南海トラフ地震時の想定震度分布図や液状化可能性分布図などを示す「防災マップ」や「津波避難マップ」、「洪水ひなん地図」、「浸水ひなん地図」を見ることができる(図参照)。
また、災害は発生後も時々刻々と変化することから、近年では現在雨量だけでなく直前の雨量も考慮に入れた実効雨量などの様々な情報をリアルタイムに更新し、その時点での災害リスクの推移を可視化するリアルタイムハザードマップの試み(3)も行われている。
ハザードマップ利用時に注意する点としては、色がついている区域は要注意であることは明らかだが、色がついていない区域が安全であるという保障はない点である。災害の予測シミュレーションは様々な仮定や単純化を用いているため、実際の災害による被害の規模と範囲において必ず誤差が生じる。想定外の場所や規模の降雨や地震、火山噴火が発生する可能性が当然存在する。
また、揺れやすさマップなどは例えば250 m四方の地盤を一つの単位として評価されており、全体としては揺れにくい場所でも旧河道などの過去の土地履歴の影響でピンポイントに揺れやすい区域が発生する場合もある。
災害から身を守るためには、災害が発生する前にハザードマップで災害リスクを把握し、対策や避難の方針をあらかじめ決めておくことが一番大切である。発災後も継続して情報を収集し、実際の避難活動に役立てたい。
参考URL
⑴ 国土地理院 ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/
⑵ 静岡市 静岡市防災情報マップ
https://www2.wagmap.jp/shizuoka-hazard/Portal
⑶ 「防災科研 リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版
https://www.bosai.go.jp/activity_special/realtime_hazardrisk.html
GISの利用と普及が一気に広がったのには理由がある。それは、アメリカのGPS、EUのGalileo、日本のみちびきなどの全球測位衛星システム(一般にGNSSと呼ぶ)の整備が進み、また2007年4月以降携帯電話端末がGPS等の測位方式による位置情報通知機能に対応したことで、個人レベルで緯度経度などの正確な位置情報が簡単に得られるようになったからである。
地理情報システムの利点は複数の情報を重ね合わせて表現できる点である。特に様々な自然災害の被害を予測し、その被害想定範囲や避難場所を地図上に示すハザードマップへのGISの利用が進んでいる。今住んでいる場所にはどのような災害リスクが存在するのか、災害が発生した時はどこに避難すればよいのか。それを教えてくれるのがハザードマップである。
ハザードマップは対象とする自然災害についてそれぞれ作成・公開が義務付けられている。例えば以下のハザードマップがある。
• 河川氾濫時の浸水想定区域を示す洪水ハザードマップ
• 下水道の排水能力を超える降雨による浸水想定区域を示す内水ハザードマップ
• 土砂災害警戒区域を示す土砂災害ハザードマップ
• 地震に対する想定震度(揺れやすさ)やそれに伴う液状化現象の想定区域などを示す地震ハザードマップ
• 津波災害警戒区域を示す津波ハザードマップ
• 火山災害警戒地域を示す火山ハザードマップ
• 高潮ハザードマップ、ため池ハザードマップなど、地域の特性に応じたハザードマップ
役所や役場などで配布されている紙媒体のハザードマップではそれぞれの災害についてそれぞれの地図が必要になるが、GISを用いることで、縮尺を自由に変更できる背景地図の上に、自分で選択した浸水想定区域や土砂災害警戒区域、避難場所等の様々な情報を重ね合わせて表示させることができる。
国土地理院のハザードマップポータルサイト(1)では「重ねるハザードマップ」と「わがまちハザードマップ」が公開されている。「重ねるハザードマップ」では住所を入力するとその地点の地図が表示され、洪水・土砂災害・高潮・津波・道路防災情報・地形分類などの情報を重ね合わせて表示することができる。「わがまちハザードマップ」は自治体を選ぶことでその自治体がハザードマップを公開しているwebサイトにアクセスすることができる。
自治体によってはWebGISを使用した防災情報マップを公開している。例えば静岡市では「静岡市防災情報マップ(2)」が公開されており、南海トラフ地震時の想定震度分布図や液状化可能性分布図などを示す「防災マップ」や「津波避難マップ」、「洪水ひなん地図」、「浸水ひなん地図」を見ることができる(図参照)。
また、災害は発生後も時々刻々と変化することから、近年では現在雨量だけでなく直前の雨量も考慮に入れた実効雨量などの様々な情報をリアルタイムに更新し、その時点での災害リスクの推移を可視化するリアルタイムハザードマップの試み(3)も行われている。
ハザードマップ利用時に注意する点としては、色がついている区域は要注意であることは明らかだが、色がついていない区域が安全であるという保障はない点である。災害の予測シミュレーションは様々な仮定や単純化を用いているため、実際の災害による被害の規模と範囲において必ず誤差が生じる。想定外の場所や規模の降雨や地震、火山噴火が発生する可能性が当然存在する。
また、揺れやすさマップなどは例えば250 m四方の地盤を一つの単位として評価されており、全体としては揺れにくい場所でも旧河道などの過去の土地履歴の影響でピンポイントに揺れやすい区域が発生する場合もある。
災害から身を守るためには、災害が発生する前にハザードマップで災害リスクを把握し、対策や避難の方針をあらかじめ決めておくことが一番大切である。発災後も継続して情報を収集し、実際の避難活動に役立てたい。
参考URL
⑴ 国土地理院 ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/
⑵ 静岡市 静岡市防災情報マップ
https://www2.wagmap.jp/shizuoka-hazard/Portal
⑶ 「防災科研 リアルタイム洪水・土砂災害リスク情報マップβ版
https://www.bosai.go.jp/activity_special/realtime_hazardrisk.html
図. 静岡市街地のハザードマップ。左図は南海トラフ地震時の最大想定震度(赤は震度7、オレンジは震度6強)、右図は安倍川氾濫時の浸水想定区域。