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[大東京復興双六」100年前、子供たちの震災復興に込めた思い(客員教授 岩田 孝仁)


9月1日 客員教授 岩田 孝仁(静岡大学防災総合センター 特任教授)
 私の手元に、大正時代に出版された小学生向け月刊誌「良友」(コドモ社)の大正14年1月1日発行の新年号付録の「すごろく」(複製)がある。100年前の関東大震災の発生からわずか1年4か月後、東京の下町にはまだ震災の惨禍が残る年の正月に出版されたもので、「大東京復興双六」と記されたタイトルが目を引く。作画は童画家の河目悌二氏である。「フリダシ」では、関東大震災で壊滅的な被害を受けた墨田川沿いの地図を背景に女子2人が何か相談事をしている。以下順に各マス目の記載を追ってみると、震災からの復興を願い、子供たちから届けられたアイデアがふんだんに盛り込まれていて、今にも通じる斬新な発想に驚かされる。

(写真)大東京復興双六_月刊誌「良友」(コドモ社)大正14年1月1日発行_新年号付録(モバイル社会研究所「ケータイ社会白書」(2010年 中央経済社)出版記念複製)

フリダシ (墨田川沿いの地図を背景に何か相談事をする2人の女の子)
1.地下鉄道 エレベーターで地下鉄道へ(大深度空間を走行する地下鉄道)
2.高架電車 (ビルの上方に掛かるつり橋状の高架橋を電車が走る)
3.空中散水機 (大きな水槽を内蔵した飛行機が上空から空中消火を)
4.大道路 (街路樹で囲まれた広幅員の道路が広がる街)
5.屋上プール (ビルの屋上プールで楽しそうに遊んでいる大人や子供たち)
6.水の公園 (満々と水をたたえた湖に船が浮かび、水中には遊覧の潜水艇が運行)
7.廻転橋 大きな汽船が通る時クルリと橋が廻ります(隅田川に掛かる橋をイメージしているのか、人が歩行するタワーブリッジと大型船が通る時に回転する車用の橋桁)
8.ラジオで音楽 どこでも聞かれる便利なラジオ
9.月世界行き 新発明の単軌飛行車(ワイヤーを伝って月と行き来する乗り物)
10.大グラウンド (近代都市の中に造られた広大な競技場 いざという時の避難広場)
11.白昼活動写真 雲に写った活動写真(上空の雲をスクリーンに映画鑑賞)
12.屋上発着場 (ビルの屋上に離発着する飛行機)
13.懐中電話 歩きながらお母さんとお話し(ショルダー型の電話機で散歩しながらおしゃべりする子供)
14.大マーケット 汽車や汽船やお家まで(汽車や汽船、家まで販売する巨大ショッピングセンター)
15.乗合飛行船 ロンドン行き乗り場(ロンドン行きの飛行船乗り場)
上り (広々とした道路に面してゆったり立ち並ぶモダンなビル群、復興した街並みが描かれている)
                                   ( )内は筆者が解説として付記
 ここに描かれている復興の姿には、関東大震災で市街地が広域に焼失し多くの犠牲者を出した震災被害をどうしたら回避できるのか、その教訓がうまく表現されている。3マスの航空機による空中消火、5・6マスの水源となるプールや湖は消火体制の確保の願いが込められている。4マスの大道路は延焼遮断帯や避難路の機能が盛り込まれ、1マスの地下鉄道や6マスの水の公園、10マスの大グラウンドは広域避難スペースがイメージされる。8マスの携帯ラジオや13マスの懐中電話は災害時に正しい情報の収集や家族との連絡手段の確保の重要性を意識したものであろう。

 自由主義的な風潮が華やかな大正デモクラシーの時代背景が垣間見え、子供達が思い描く大震災からの復興への期待や希望がうまく表現されている。延焼遮断帯や空中消火、携帯電話や月面旅行など、今に通じる斬新なアイデアに感心させられる。

 地震国と云われる日本でも「大震災」と名が付くのは、1923年(大正12年)の関東大震災、大都市神戸などが震度7の激震に見舞われた1995年の阪神・淡路大震災、そして大津波で多くの犠牲を出した2011年の東日本大震災の3事例しかない。こうした中、近い将来、発生が危惧されている南海トラフの巨大地震は、想定されている災害規模のまま今起きてしまうと、確実に「大震災」と呼ぶことになってしまう。

 最近では災害の被害軽減のためには、予め復興の姿を描き、対応できることは事前に対策を実行しておく、いわゆる「事前復興」の考えを防災対策に取り入れることが求められつつある。ここに紹介した復興双六は、大都市の延焼火災の防止を強く意識した復興の姿をイメージしている。一方、南海トラフの巨大地震は市街地を襲う激しい地震動、さらに沿岸を襲う大津波と中山間地域の土砂災害である。犠牲者を減らし被害を軽減するためには、こうした災害であっても被害を受けにくい街をしっかりイメージし、その実現に向けて予め実行できることは確実に進めておくことにある。
                                                   
                                                   (2023年9月1日 岩田孝仁)