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能登半島地震に学ぶ過去を知ることと備えることの重要性(客員教授 堀 高峰)


静岡県立大学グローバル地域センター客員教授 堀 高峰
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海域地震火山部門
地震津波予測研究開発センター
 2012年8月に公表された南海トラフ巨大地震の被害想定では、最大死者数は約32万人とされ、そのうち約23万人が津波による死者とされていました。これを受けた国や地方自治体の様々な対策により、2018年6月の再計算では最大死者数は約23万人、津波による死者は約16万人とされ、当初の想定より約3割減少しました[1]。

2011年12月27日に施行された「津波防災地域づくりに関する法律(津波防災地域づくり法)」は、東日本大震災の津波被害を受けて制定されました。この法律は、地域の実情や安全度を考慮した災害に強い地域づくりを全国的に推進することを目的としています。この法律に基づき、各都道府県は最大クラスの津波を想定した津波浸水想定(浸水区域および水深)を作成することが義務付けられており、市町村はそれに基づいて津波防災地域づくりの計画を策定しています。

「津波防災地域づくり法」に基づき、都道府県知事は津波浸水想定を踏まえて、避難施設や避難路の確保、避難訓練の実施、ハザードマップの作成と周知など、津波警戒避難体制を特に整備すべき土地の区域を「津波災害警戒区域(イエローゾーン)」として指定することができます。さらに、社会福祉施設、学校、医療施設の建築および開発行為を制限すべき区域を「津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)」として指定できます。また、円滑・迅速な避難が確保できない区域は、市町村が都道府県と協議の上、「津波災害警戒区域のうち市町村長が条例で定めた区域(レッドゾーン)」として指定することができます(図1参照[2])。

前回の研究員リレーコラム[3]で紹介した静岡県地理情報システム(静岡県GIS[4])では、津波浸水想定区域、津波災害警戒区域および津波災害特別警戒区域を確認することができます。静岡県では14の市町が津波災害警戒区域(イエローゾーン)を指定しており、伊豆市では津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)も指定しています。2024年3月5日時点で、7つの市町では津波防災地域づくり推進計画や独自の津波対策計画が作成・実施されていますが、津波災害警戒区域については未指定です[5]。そのため、現時点で警戒区域を指定していない自治体の海岸線にはGIS上で警戒区域は表示されません(図2参照)。これは安全だから警戒区域が表示されていないわけではないことに注意が必要です。特に、津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)を指定しているのは全国でも伊豆市のみであり、伊豆市だけが特別危ないというわけではありません。

2023年4月17日時点で、津波のおそれのある40都道府県のうち25道府県で津波災害警戒区域が指定されており、そのうち8道県では一部市町村で未指定です[6]。津波災害警戒区域の指定は、危険のレッテルを貼るものではなく、津波に対して安全な地域を目指すことを示すものです。しかし、区域内の不動産取引において重要事項説明が必要となるため、地価の下落や風評被害を招く可能性があり、住民や観光業界との合意形成が難しいことが指定の進まない一因とされています。

伊豆市では、津波災害警戒区域・津波災害特別警戒区域の指定にあたり、住民や観光団体などとの意見交換を重ねて合意形成を図り、愛称を公募で選定しています。津波災害警戒区域(イエローゾーン)は「海のまち安全避難エリア」、津波災害特別警戒区域(オレンジゾーン)は「海のまち安全創出エリア」と名付けられ、地域住民や観光客に津波防災地域づくりの考え方を適切に伝えようとしています[7]。

津波災害警戒区域は、津波浸水想定で明らかになっている津波リスクに対して積極的に対策を行っている地域であることを示すものです。また、警戒区域が指定されていないからといって、その自治体が津波対策をおろそかにしているわけではありません。自分の住んでいる自治体がどのような考えで津波対策を行っているかを、市町村のウェブページなどでぜひ確認してみてください。


参考文献・参考URL
[1] 内閣府 南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ
https://www.bousai.go.jp/jishin/nankai/nankaitrough_info.html

[2] 国土地理院 [概要]津波防災地域づくり法について https://www.mlit.go.jp/common/001233095.pdf

[3] 自治体が公開するオープンデータと地理情報システム
https://www.global-center.jp/column/column1/2023/20230803/index.html

[4] 静岡県GIS
https://www.gis.pref.shizuoka.jp/

[5] 静岡県 津波災害警戒区域及び津波災害特別警戒区域の指定状況
https://www.pref.shizuoka.jp/machizukuri/kasensabo/minato/1003560/1049186/1049187/index.html

[6] 国土交通省 津波災害警戒区域の指定及び推進計画の作成状況
https://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen_db/pdf/2023/2-5-5.pdf

[7] 伊豆市 地域を安全にする区域の『愛称』決定
https://www.city.izu.shizuoka.jp/soshiki/1006/1/4/3/2/313.html

図1 1988/5/10-2023/5/10の地震活動。
活発な活動に囲まれて、地震が発生していない「空白域」が見られた。

図2 1729年の地震による隆起・沈降域を重ねた(Hamada et al.,2016)。
その広がりよりも空白域は広い。



【参考文献】
Hamada et al.,2016, Tectonophysics, 670, 38–47.
宍倉正展・澤井祐紀・行谷佑一・岡村行信,2010,AFERCニュース,16,1-10.
宍倉正展, 2011, 地震学会ニュースレター, 23(3), 20-25.
宍倉正展・越智智雄・行谷佑一, 2020,活断層研究, 53, 33-49.
宍倉正展・岡村行信, 2024,地震予知連絡会,