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能登半島地震に学ぶ過去を知ることと備えることの重要性(客員教授 堀 高峰)


静岡県立大学グローバル地域センター客員教授 堀 高峰
国立研究開発法人海洋研究開発機構
海域地震火山部門
地震津波予測研究開発センター
 
 昨年6月のこのコラム(*)で、「揺れに備えておいてよかったを増やしたい」ということで、日本が、複数のプレートが集まり、必然的にひずみが蓄積し、地震によって解消されることを繰り返してできてきた場所であり、今後も確実に、様々な場所で地震が繰り返すことから、揺れへの備えの必要性をお伝えしました。その約半年後の1月1日に発生した能登半島の地震とその震災によって、揺れへの備えの必要性が改めて浮き彫りになりました。亡くなられた方々のご冥福をお祈りするとともに、半年近く経っても復旧・復興がままならず、不自由な生活をされている多くの被災された方々の生活が改善されるよう祈っています。
 能登半島の地震は、我々に大変重要な教訓を残したと考えています。それは、過去数千年の間に繰り返し起きたことは、また繰り返し起きるのだということです。具体的には、今回の地震で生じた海岸での数メートルにも及ぶ隆起です。この海岸沿いには、過去の隆起の繰り返しを示す地形が、約6千年前以降、少なくとも3回分残っていることが示されていました(宍倉・他, 2020)。一方で、歴史時代(1729年)や近年の地震(2007年・2023年)による隆起量は、それに比べて桁違いに小さい(数十センチ程度)こともわかっていました(同論文)。そして、過去の隆起の繰り返しで地形が高くなっていたところが、今回の地震で大きく隆起していることが報告されました(宍倉・岡田, 2024)。
 過去数千年の間に繰り返し起きたことが実際にまた起きることは、実は東日本大震災でも起きていました。この場合は津波に関してで、仙台や石巻の平野に、海岸線から数キロメートル内陸まで津波が繰り返し来た痕跡が堆積物として残っており、過去約 2500 年間に少なくとも4回の巨大津波が襲来していたことがわかっていました(宍倉・他, 2010)。そして、まさに同様なことが2011年に繰り返されました(宍倉, 2011)。
 このように、過去数千年という非常に長い間に繰り返してきたことは、必ずまた繰り返すことになります。それはいわば過去最大級とも言うべきもので、それがどのような揺れや津波を引き起こすのかを、過去の痕跡を詳細に調べることで知っておき、それに対して備えておくこと、まずは揺れに対して、その上で津波や地滑り、液状化といった、地震の揺れや地殻の隆起等の影響で生じることに備えることが必要になります。
 また、こうした過去の大地震の繰り返しの知見と、目の前で起きている現象とを繋げて考えることの重要性も、能登半島の地震の教訓だと考えています。元日の大地震が起きる数年前から、今回の震源の周辺では、活発な地震活動や地殻変動が続いていました。昨年5月のM6クラスの地震が発生した際、過去35年間の能登半島周辺の浅い地震の震源分布に見られる「空白域」と1729年の地震の範囲を比べて、この歴史地震の再来の可能性を考えました(図は当時のもの)。しかし、内陸地震の典型的な再来間隔からは、すぐに起こるとは思えず、また、数千年間に海岸の隆起が繰り返してきたことも知りませんでした。そのため、活発な地震活動や地震活動の空白域の情報だけから、より大きな地震に対して備える必要性に言及することを躊躇してしまっていました。
 結果として元日に起きた地震は、過去に起きた痕跡が存在する最大の地震でした。そして、活発な地震活動や地殻変動と元日の地震との因果関係は明らかではありませんが、地震活動が活発な状況では、地震の統計則から考えても、誘発の可能性から考えても、大地震発生の可能性が相対的に高かったとは言えます。これらを合わせて考えると、大地震発生の可能性が高い場合には、過去に起きたことのある最大レベルまでのリスクを念頭に、揺れに対する事前対策をしておけば、大地震が実際に発生した場合の被害を少しでも減らすことができると言えます。ここで重要なのは、大地震が発生する可能性があるからと、事前に避難しておくといった一過性の対策をするのではなく、揺れに対する備えのような、その時に対策をしておくことで、将来にまで役立つ対策をするということです。そうすれば、その時点で大地震が起きなかったとしても、いずれ大地震が起きた際に、備えておいてよかったということになります。

図1 1988/5/10-2023/5/10の地震活動。
活発な活動に囲まれて、地震が発生していない「空白域」が見られた。

図2 1729年の地震による隆起・沈降域を重ねた(Hamada et al.,2016)。
その広がりよりも空白域は広い。



【参考文献】
Hamada et al.,2016, Tectonophysics, 670, 38–47.
宍倉正展・澤井祐紀・行谷佑一・岡村行信,2010,AFERCニュース,16,1-10.
宍倉正展, 2011, 地震学会ニュースレター, 23(3), 20-25.
宍倉正展・越智智雄・行谷佑一, 2020,活断層研究, 53, 33-49.
宍倉正展・岡村行信, 2024,地震予知連絡会,