最近の西日本の地震活動について(客員教授 尾池 和夫)
2024年8月9日 静岡県立大学グローバル地域センター客員教授 尾池和夫
1. 序
2024 年8月16時42分(日本時)に、日向灘でM(マグニチュード)7.1、震源(震源断層面の破壊開始点)の深さ31kmの地震が発生し、地表では最大震度6弱の揺れが記録された。最大震度6弱は宮崎県日南市(にちなんし)で、主な被害(報道、消防庁資料より)は、けが、建物損壊などであった。
2024 年8月16時42分(日本時)に、日向灘でM(マグニチュード)7.1、震源(震源断層面の破壊開始点)の深さ31kmの地震が発生し、地表では最大震度6弱の揺れが記録された。最大震度6弱は宮崎県日南市(にちなんし)で、主な被害(報道、消防庁資料より)は、けが、建物損壊などであった。
図1:2024年8月8日の地震の震度分布
気象庁のウェブページ「地震情報」より
https://www.jma.go.jp/bosai/map.html#contents=earthquake̲map
今回のこの地震を歴史が繰り返すという視点から見て考えたことを、メモとして記載しておくのがこの論の趣旨である。ご批判をいただきたい。
2. 過去200年間の地震活動
西日本の地震分布をM6以上、深さ0-100kmの地震分布図から概観する。M6以上という地震を選ぶ理由は、主として近代の歴史資料がその程度の規模の地震であればあまり見逃すことなく記録されていると思われるのと、浅い地震でM6以上の地震が内陸で発生すると被害が出るということによる。
この地域の地震には次のような種類がある。
活断層帯の地震:中央構造線から北の部分に活断層が密集しており、活断層帯に地震活動がある。
活火山の周辺に、マグマ活動に関連した浅い地震がある。
南海トラフの沈み込みに関連するプレート境界の地震がある。
沈み込んだプレート内の破壊による地震がある。
図 2 過去 100 年間の西日本の地震分布図
石川有三他による Seis-pc を用いて図を作成した。
緑の線は主な活断層。海底の等深線は深さ 2000m。赤い三角は活火山。赤の+が地震。
地震は深さ 0-100km、M>=6.0。
3.フィリピン海プレートの沈み込み
フィリピン海プレートの沈み込みの特徴は、3つの部分に分かれている。東から、伊豆半島が本州に衝突して北へ陸地を圧縮してプレート境界を引きずって曲げている部分、すなわち相模湾から伊豆半島北部を経て駿河湾にいたる地域。静岡から宮崎沖にかけての南海トラフ地域。宮崎沖から南西諸島に沿って台湾にいたる琉球海溝地域。琉球海溝は南西諸島の東方に分布しているフィリピン海プレート西縁に位置する海溝で南西諸島海溝とも呼ばれる。
伊豆半島はフィリピン海プレートに乗って、100 万年ほど前に本州に接近し、その後 60万年前には本州に衝突して陸続きとなった。その頃から現在の西日本の地震を起こす応力の分布ができあがって現在に至っていると考える。
フィリピン海プレートは、伊豆半島の本州への衝突以来、そこを軸として時計廻りの運動で、琉球海溝にほぼ垂直方向に沈み込んでおり、日本列島側には右ずれを起こす力を、フィリピン地域には左ずれを起こす力を及ぼしており、その結果、中央構造線活断層の右ずれとフィリピン断層の左ずれを発生させている。
さらに日向灘の沖で2つの沈み込み帯が「く」の字型に曲がっており、テーブルクロスがテーブルの角に垂れ下がって皺になるように、沈み込んだプレートに大きく皺ができるような力が働いて上昇運動を生み出す。そのため、日向灘地域には大規模地震が頻発する応力場が発生し、さらには阿蘇や鹿児島地域の巨大噴火を引き起こすマグマ活動がある。
同じような「く」の字の部分は、関東沖の日本海溝から伊豆マリアナ海溝へつながる部分、北海道南東沖の日本海溝から千島海溝へつながる部分にもあり、それぞれ大規模な地震活動と巨大噴火を起こしている。
4.西日本の地震活動の変化
この地域では歴史資料が豊富に得られている。特に近畿の地域については尾池によるデータベースができており、それによって地震活動の分析が進められている。
この地域の地震活動の変化は、南海トラフの巨大地震の50年前から南海トラフの巨大地震の10年後までの間が、内陸部の活断層などを中心とする地震活動期となる。その活動期の間が静穏期で、静穏期の期間の長さに変化がある。
最近では1854 年の安政の南海トラフの巨大地震の後の静穏期の後、1891 年の根尾谷断層の地震から次の活動期に入り、1943年鳥取地震の直後、1944年の東南海地震、1946年の南海地震と巨大地震があり、1948年の福井地震で活動期が終わった。
静穏期は 1995 年兵庫県南部地震前まで続いた。その後、1995 年から活動期に入って現在に至っており、統計データからは21世紀の前半が活動期で、2040年頃に南海トラフの巨大地震が起こると予想されている。
このような状況は2011年のM9.0の東北地方太平洋沖地震の発生の影響で変わるのではないかという見解もあるが、7世紀の東北の巨大地震の後にも、やはり同じように南海トラフの地震が起こっていることから、大きく状況が変わることはないと考える。
図 3:西日本の地震活動の時間変化
地震データは図 2 と同じ上から日向灘および伊予灘の地域、中は南海トラフ地域、下は内陸地域で、活断層帯と活火山地域を含む。
図 3 から地震活動の特徴を概観すると、次のような傾向が見られる。
日向灘の地震活動は、南海トラフの巨大地震の前に活発になり、その後少し休む。
南海トラフの巨大地震の前後にはその地域の地震活動度が高くなる。前回の活動の後しばらく静穏であったが最近活動を始めている。
内陸部の地震活動は南海トラフの巨大地震の前 50 年から活発になり、南海トラフの巨大地震の 10 年後に活動度が低くなる。
内陸部の地震活動は 1995 年以後活発になり、次の活動期に入っていると考えられる。日向灘の今回の地震は図には入っていないが、この地震の発生によって、日向灘地域の地震活動も活発化し始めると思われる。
したがってやはり歴史資料からの予測の通り、2040 年頃には次の南海トラフの巨大地震が発生するものと思われる。
5.地震分布図から見た地震活動の変化
以上述べた地震活動の変化を、地震分布図を期間ごとに分けて描くことから、確認することができる。
図4 1860年8月から1880年7月
1854 年の安政の南海トラフの巨大地震の
活動期の後の静穏期の地震分布
地震活動が全体的に低調である。
1854 年の安政の南海トラフの巨大地震の
活動期の後の静穏期の地震分布
地震活動が全体的に低調である。
図5 1881年8月から1944年7月
地震活動期で内陸部の活断層帯に地震
が連発した。この期間にすでに明石海峡に
M6の地震が発生しており、これが次の大地
震の前触れであると思われる。
地震活動期で内陸部の活断層帯に地震
が連発した。この期間にすでに明石海峡に
M6の地震が発生しており、これが次の大地
震の前触れであると思われる。
図6 1944年8月から1950年7月
前回の南海トラフの巨大地震の期間で、
プレート境界がずれることによって内陸部
は静かになることがわかる。
前回の南海トラフの巨大地震の期間で、
プレート境界がずれることによって内陸部
は静かになることがわかる。
図7 1994年8月から2024年7月
現在の地震活動期を状況。
前回の活動期に動き始めていた明石 海峡から、
まず今回の地震活動期の最初の地震が発生した。
現在の地震活動期を状況。
前回の活動期に動き始めていた明石 海峡から、
まず今回の地震活動期の最初の地震が発生した。
この図の活動のあと、8月8日の日向灘地震の発生で、南海トラフの巨大地震地域を取り囲む地域で地震活動があり、本番がいよいよ迫って来たと見ることができる。4.に述べたとおり、歴史資料からの予測した次の南海トラフの巨大地震が、2040年頃には発生するものと思われる。
今回の地震に際して、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。この情報が発表されたのは、2019年に運用が始まってから初めてである。気象庁は、この情報が特定の期間中に必ず地震が発生することを伝える情報ではないとしたうえで、巨大地震に備えて防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけた。
この発表は制度の変更に伴うものであって、自然現象の方が特別に変化したものではないということを、このメモから読み取ってほしいと思う。
以上
今回の地震に際して、気象庁は南海トラフ地震の想定震源域で大規模地震が発生する可能性がふだんと比べて高まっているとして「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表した。この情報が発表されたのは、2019年に運用が始まってから初めてである。気象庁は、この情報が特定の期間中に必ず地震が発生することを伝える情報ではないとしたうえで、巨大地震に備えて防災対策の推進地域に指定されている29の都府県の707市町村に地震への備えを改めて確認してほしいと呼びかけた。
この発表は制度の変更に伴うものであって、自然現象の方が特別に変化したものではないということを、このメモから読み取ってほしいと思う。
以上