新政権とスピード (特任教授 小川 和久)
静岡県立大学グローバル地域センター 特任教授 小川 和久
27日の自民党総裁選に向けて9人の候補者が出そろった。
どの候補も有能で人格的に優れているのは間違いないが、共通した欠点を抱えているのが気になる。
日本はいま「内憂外患」の状態にある。リーダーに求められるのは即断即決の能力だ。これには「スピード」が伴わなければならない。
しばしば「スピード感」なる言葉が登場するが、これは「やっているふり」の言い替えに過ぎない。
候補者の中で、河野太郎氏はしばしば「突破力」があると評される。しかし、私に言わせれば「やっているふり」の域を出ていない。
たとえば防衛大臣時代のイージス・アショアの白紙撤回。そのあと、「いまそこにある危機」である周辺国のミサイルの脅威に対して、ただちに講じなければならないミサイル防衛に手を打つことなく大臣の職を去った。イージス・アショアに替わるシステムが本格運用になるまで、日本列島は裸同然でも大丈夫と思っているようだ。「やったふり」と言われても仕方がない。
日本の危機はそれだけではない。経済も然り。拙速であろうとただちに手を打ち、走りながら修正し、完成度を高めることが不可欠だ。
それがスピードのある政権運営というものだろう。そうでないと世界に通用しない。
新政権が参考にすべきは、小渕恵三政権の野中広務官房長官と小泉純一郎政権だろう。ともに即断即決が際立っていた。
野中氏は情報収集衛星とドクターヘリの導入をその場で決めた。小泉政権は、姉の信子さん、飯島勲秘書官率いる4人の総理秘書官と5人の特命参事官、地元を固める弟の正也氏という「小泉商店」で5年半の政権を実現した。飯島秘書官のもとで仕事の90%ほどが即決で処理されていき、小泉首相は最重要課題に集中できた。
私の乏しい経験でも、地下鉄サリン事件から24年間、国民を危険にさらしてきた化学テロ対策が、わずか40分で解決したケースがある。
宇宙服のような化学防護服を着ても、可能なのは被害者の搬出だけだ。現場で解毒剤を自動注射器で投与しないと救命効果は期待できない。
それを消防審議会で提起しても、二代にわたる厚労大臣に直訴しても動かなかった。それが、知人の厚労副大臣のところへ担当課長を呼び、
専門的な議論をしただけで、40分で解毒剤と自動注射器の導入、有資格者以外の解毒剤の投与へと動き、1年を経ずして実現した。
日本が「巧遅」に陥るのは政治が機能しておらず、官僚丸投げになるからだ。官僚はのちのち責任を問われないよう、ひたすら完成度を高めようとする傾向がある。タイミングや、それこそ国家国民の安全などを考慮することは少ない。むろん官僚の専門的知見は限られている。そして官僚の答案をチェックする能力は政治家の側にはない。かくして国際的に通用せず、タイミングを逸した答案のオンパレードとなる。
私は小泉政権当時、飯島秘書官を「ひとりNSC(国家安全保障会議)」と呼んでいたが、総裁選の候補者は政策を打ち上げるときに参考にすべきではないか。