耐震補強の重要性 (客員教授 長尾年恭)
1月15日 客員教授 長尾 年恭 (東海大学海洋研究所 客員教授/認定NPO法人「富士山測候所を活用する会」理事 )
筆者は地震予知研究をこれまで長年行ってきた。もし地震予知が実現すれば、それは人的被害低減に大きく貢献する事を意味する。また「予知か防災か」という議論がなされる事もあるがこのステレオタイプの議論は間違いである。たとえ予知に成功しても地震は発生するのであるから、防災と比較すべき事ではない。あえて言えば「予知も防災も」が正しく、予知は地震防災において人的被害を減らすという意味で最後の砦と言えるであろう。
2025年は阪神・淡路大震災から丁度30年という節目の年である。この震災は1995年1月17日・午前5時46分に発生した。この震災では建物倒壊により多くの方が亡くなった。死者の80%はほぼ即死であり、それまでは「地震だ、すぐ火を消そう」と火災による被害がクローズアップされていたが、そうではなかったのである。その結果この大震災では、耐震補強という事が大きくクローズアップされる事となった。図1は阪神・淡路大震災でいつ、どれくらいの方が亡くなったかの検死記録である。驚くべき事に80%の方が地震発生直後に亡くなっており即死であったのだ。
2025年は阪神・淡路大震災から丁度30年という節目の年である。この震災は1995年1月17日・午前5時46分に発生した。この震災では建物倒壊により多くの方が亡くなった。死者の80%はほぼ即死であり、それまでは「地震だ、すぐ火を消そう」と火災による被害がクローズアップされていたが、そうではなかったのである。その結果この大震災では、耐震補強という事が大きくクローズアップされる事となった。図1は阪神・淡路大震災でいつ、どれくらいの方が亡くなったかの検死記録である。驚くべき事に80%の方が地震発生直後に亡くなっており即死であったのだ。
図1:阪神・淡路大震災(における死者の死亡推定時刻(神戸市分)
(当時神戸市監察医の横浜市大西村明儒氏らによる)
ハイパーレスキュー隊や探知犬などの活躍が大地震の後に話題となるが、この阪神・淡路大震災では、いくらレスキュー隊や自衛隊が活躍しても、この80%の方は助けられなかったのである。またこの地震で明らかになったのは、関西地方の人は「関西には大地震は来ない」と考えていた人が多かったという事で、いかに地学的な知識が重要かという事を思い知らされた地震であった。
ちなみに神戸の夜景はかつて「100万ドルの夜景」と呼ばれていたが、この美しい夜景は神戸の地形的特徴として、海に面した港町であり、背後には六甲山系がそびえている事がキーポイントである。換言すれば海岸線には平坦な土地がある一方で、内陸に向かうと急激に標高が上がるのが特徴である。この高低差が形成された大きな理由は、神戸は地震活動が歴史的には活発で、繰り返し大地震が発生したためで、それは地質調査からも明らかとなっている。これらの地震活動により、断層系が形成され、内陸に行くほど標高が高いという状況を作り出したのである。「100万ドルの夜景」は、ある意味過去から現在にわたる断層運動が美しい夜景の形成に一役買っていたのである。
以上をまとめると、この地震では関東大震災のように火災で亡くなったというより、建物の倒壊により命を落とした方が極めて多かった事が特徴であった。死因は窒息死、圧死、ショック・損傷、打撲・挫滅症、臓器不全・凍死・衰弱死、焼死・全身火傷等の死因と分類されたが、実に死者の83%の方が建物倒壊等を原因として亡くなっていたのである。これが阪神・淡路大震災の最も大きな特徴と言えるであろう。さらに火災の発生と建物の倒壊との間に極めて興味深い関係が明らかとなったのもこの震災であった。図2は、この地震における建物全壊率と直後出火率の関係である。
ちなみに神戸の夜景はかつて「100万ドルの夜景」と呼ばれていたが、この美しい夜景は神戸の地形的特徴として、海に面した港町であり、背後には六甲山系がそびえている事がキーポイントである。換言すれば海岸線には平坦な土地がある一方で、内陸に向かうと急激に標高が上がるのが特徴である。この高低差が形成された大きな理由は、神戸は地震活動が歴史的には活発で、繰り返し大地震が発生したためで、それは地質調査からも明らかとなっている。これらの地震活動により、断層系が形成され、内陸に行くほど標高が高いという状況を作り出したのである。「100万ドルの夜景」は、ある意味過去から現在にわたる断層運動が美しい夜景の形成に一役買っていたのである。
以上をまとめると、この地震では関東大震災のように火災で亡くなったというより、建物の倒壊により命を落とした方が極めて多かった事が特徴であった。死因は窒息死、圧死、ショック・損傷、打撲・挫滅症、臓器不全・凍死・衰弱死、焼死・全身火傷等の死因と分類されたが、実に死者の83%の方が建物倒壊等を原因として亡くなっていたのである。これが阪神・淡路大震災の最も大きな特徴と言えるであろう。さらに火災の発生と建物の倒壊との間に極めて興味深い関係が明らかとなったのもこの震災であった。図2は、この地震における建物全壊率と直後出火率の関係である。
図2:消防庁ホームページより
この図から、極めて興味深い事実が見てとれる。つまり、火災は建物が倒壊した事により引き起こされていたのであった。建物が全壊しなかった北区と垂水区では、なんと直後出火件数はゼロだったのだ。建物を壊さない事が火事を減らす最大の要因である事がはからずも明らかとなった。
さらにこの震災では死者の年齢分布について、言葉は悪いが、極めて興味深い結果となっていた。図3はこの震災における年齢別死亡者数である。この震災では、80%以上の方がほぼ即死であった事は前に述べた。そのため、この年齢別の死亡者数のグラフはおおよそ即死した方の年齢分布と考えて差し支えない。中年からご高齢の方が確かに多いが、これは中小企業や古い商店街であった長田区で多くの方が亡くなったためと解釈されている。
それ以外に特徴的なのは、20歳から24歳の所に顕著なピークが存在する事である。実はこれは大学生なのである。一般的に日本では高校生まではご両親と一緒に暮らしている方がほとんどと思われる。そして大学を卒業後は初任給も入る事から、学生時代よりは少しは良いアパート等に住む事になる。
つまり日本で、一番安い=古い家に住んでいるのは、大学生なのである。このグラフは家が地震と同時に圧潰(pancake collapseと英語では表現)してしまうと、体力は関係無いという事を意味している。極端に言えば、地震が人を殺すのではなく、家(建物)が人を殺すのだ。これは2016年の熊本地震でも2024年の能登半島地震でも同様の結果となっている。このような事実から阪神・淡路大震災発生後は、耐震補強の重要性が強く認識される事になったのである。
さらにこの震災では死者の年齢分布について、言葉は悪いが、極めて興味深い結果となっていた。図3はこの震災における年齢別死亡者数である。この震災では、80%以上の方がほぼ即死であった事は前に述べた。そのため、この年齢別の死亡者数のグラフはおおよそ即死した方の年齢分布と考えて差し支えない。中年からご高齢の方が確かに多いが、これは中小企業や古い商店街であった長田区で多くの方が亡くなったためと解釈されている。
それ以外に特徴的なのは、20歳から24歳の所に顕著なピークが存在する事である。実はこれは大学生なのである。一般的に日本では高校生まではご両親と一緒に暮らしている方がほとんどと思われる。そして大学を卒業後は初任給も入る事から、学生時代よりは少しは良いアパート等に住む事になる。
つまり日本で、一番安い=古い家に住んでいるのは、大学生なのである。このグラフは家が地震と同時に圧潰(pancake collapseと英語では表現)してしまうと、体力は関係無いという事を意味している。極端に言えば、地震が人を殺すのではなく、家(建物)が人を殺すのだ。これは2016年の熊本地震でも2024年の能登半島地震でも同様の結果となっている。このような事実から阪神・淡路大震災発生後は、耐震補強の重要性が強く認識される事になったのである。
図3:阪神・淡路大震災における年齢別死亡者数
(厚生統計協会『国民衛生の動向』1996年版より)
ちなみに木造建築の耐震基準について、1981年、1995年、2000年に大きな改訂がなされており、その要点は以下のようになっている。
1981年の改訂
この改訂は1978年の宮城県沖地震を契機として改訂されたもので、震度6強程度の大地震でも、建物が倒壊・崩落せず、人命や財産を守れるこ とが基準となった。
この改訂は1978年の宮城県沖地震を契機として改訂されたもので、震度6強程度の大地震でも、建物が倒壊・崩落せず、人命や財産を守れるこ とが基準となった。
- 新しい耐震設計法の導入:耐震設計の基準が大きく見直され、合理的な耐震設計方法が導入された。具体的には、建物の質量や剛性、地震力の算定方法などが改定された。
- 耐震性能の向上: 繰り返される地震に対して建物が安全に使用できるように、耐震性能を向上させるための基準が確立された。
- 構造材の基準: 木材の品質や使用する部材の基準についても具体的な規定が設けられた。
1995年の改訂
この改訂は、阪神・淡路大震災を受けて、実際の地震での被害を考慮し、より厳しい基準が設定された。
この改訂は、阪神・淡路大震災を受けて、実際の地震での被害を考慮し、より厳しい基準が設定された。
- 耐震壁の重要性: 耐震壁の設計や配置について具体的な指針が追加され、特に耐震性能を確保するための壁の比率が強調された。
- 実地経験の反映: 地震による実際の被害事例を反映した基準作りが進められた。
2000年の改訂
2000年の改訂では、木造建築に対する構造計算がさらに厳格化され、より詳細な計算方法が求められるようになった。
2000年の改訂では、木造建築に対する構造計算がさらに厳格化され、より詳細な計算方法が求められるようになった。
- 新しい評価基準: 耐震性能を評価するための新たな基準が導入され、具体的には「許容応力度設計」が促進され、より実態に即した設計を行う事となった。
- 建物の柔軟性: 木造建築の特性を生かし、地震時の建物の柔軟性を重視した設計法が推奨されるようになった。
いずれにせよ、地震災害における避難は長期化する事も多く、被災後に自宅で暮らせるという事がコロナのような感染症蔓延期だけでなく、
エコノミークラス症候群による突然死を避けるためにももっとも重要なポイントと筆者は考えている。
エコノミークラス症候群による突然死を避けるためにももっとも重要なポイントと筆者は考えている。