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第34回 米中対立とウクライナ危機とグローバライゼーションのあり方(3月29日)


                                                     柯隆

Joshua WoronieckiによるPixabayからの画像

 一部の経済学者と政治学者の間ではグローバライゼーションによって経済の相互依存関係が高まれば、国家と国家の間の戦争が起こりにくくなるといわれてきた。確かに経済の相互依存関係が高まれば、相手の国を攻撃することで、自国経済にもダメージを与えるから、戦争が起こりにくいと論理的に考えられる。しかし、それはあくまでも民主国家同士に限る話である。

 強権政治の場合、独裁者は自国の利益についてロスを被っても、自らの覇権を誇示することができれば、戦争を引き起こすことについてまったく躊躇わない。価値観の違いを無視して、机上の空論を展開しても、建設的な結論には辿り着かない。米中経済の相互依存度についてあらためて強調する必要もないが、その対立が日増しに先鋭化している。プーチン大統領は自国の利益を考えれば、ウクライナに侵攻しなかったのだろう。結局、独裁者にとって国家の利益は二の次であり、自らの権力を誇示したいだけである。

 2022年はソ連が崩壊し、冷戦が終結してからちょうど30年経過した節目の年である。皮肉にも国際社会は急速に不安定化している。なぜ米中が激しく対立するのか。なぜ戦争を止めることができなかったのか。国連という国際機関はどのような役割を果たしているのか。国際裁判所はロシアに対して停戦を命じても、ロシアによって無視されている。これらの国際機関は機能しなければ、存続の意義が問われることになる。

 まず米中対立について簡単に検証してみよう。トランプ前大統領は中国との貿易不均衡を問題視し、中国に対して制裁関税などを課した。しかし、貿易不均衡が不当だとすれば、なぜ世界貿易機関(WTO)に訴えないのか。他方、アメリカに制裁される中国は米国に対して報復するが、同様にWTOに訴えていない。この状況から判断すれば、WTOが存続する意味はもはやない。

 その後、中国に対する米国政府の制裁は貿易に止まらず、中国ハイテク企業に対する禁輸措置も講じられている。その理由は、中国ハイテク企業による米国企業のハイテク技術に対する知的財産権侵害や米国の安全保障を脅かす脅威になりうることなどといわれている。要するに、米国からみると、中国が信用のできない相手となっている。中国は米国の安全保障を脅かす脅威になったのである。

 しかし、バイデン政権は中国のことを敵国と認定しておらず、あくまでも競争相手とみているようだ。それに対して、米国にとってロシアの脅威は別次元のものである。プーチン大統領も米国の国力が年を追うごとに弱体化しているのをみている。トランプ前大統領の口癖の一つはAmerica firstといわれるように、アメリカはもはや国際社会の警察官でなくなった。なによりも、バイデン大統領が決断したアフガンからの撤兵はその狼狽ぶりから実に悲しい結末といわざるを得ない。だからこそ、ウクライナに侵攻しても、アメリカが参戦しないとプーチン大統領は確信したのだろう。

 プーチン大統領のみている通り、今のアメリカはかつてのアメリカほど国力が強くない。しかし、プーチン大統領の誤算もあった。それは国際社会がかつてないほど団結していることである。国連のロシア非難決議に141か国も賛成した。これは国連ができてからはじめてのことである。ウクライナ危機によって国連は国連2.0の時代に突入したといえる。そして、EUも変わった。中立国のスイスとスウェーデンもロシア制裁に加わった。EUもEU2.0の時代に突入した。

 これからのグローバライゼーションのあり方を考えるとき、単なる経済相互依存度を高めるのではなくて、ルールに基づいた国際社会を構築していく必要がある。まずやるべきことは国際機関の改革である。国連常任国の特権をはく奪しなければ、またウクライナ危機のような不幸に直面することになる。そして、国際裁判所がより強い権限を持つようにしなければならない。さもなければ、北朝鮮のようなならず者国家は好き勝手に核実験やミサイル発射実験を行うだろう。

 結論的に国際社会の安定を維持するには、より強いアメリカの現れを期待するのではなく、みんなで実効性のあるルールを作って、そのルールを守っていくことが重要である。